『南の島の大統領』のモハメド・ナシードからモルディブを通して後発開発途上国としての気候変動問題の流れを学ぶ
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国のためCOP15に向けてモルディブの奮闘と歴史が学べる映画
『南の島の大統領』のモハメド・ナシード元大統領からモルディブを通して後発開発途上国としての気候変動問題の流れを学びました。アメリカの映画です。この記事は※ネタバレがあります注意してください。
基本的にはモルディブという国で2008年~2012年まで大統領を務めたモハメド・ナシード氏が取り組んだ気候変動問題の取り組みについてのドキュメンタリー映画です。あくまで前政権の問題から2009年にコペンハーゲンで行われたCOP15までの取り組みが学べる映画です。
モルディブについて
新婚旅行地等で名前を聞いたことがある方もいるかもしれませんが僕は知らなかったのでまずモルディブってどこなのか調べてみました。
モルディブ共和国(モルディブきょうわこく、ディベヒ語: ދިވެހިރާއްޖޭގެ ޖުމްހޫރިއްޔާ, Dhivehi Raa'jeyge Jumhooriyya)、通称モルディブは、アジアのインド洋にある島国で、インドとスリランカの南西に位置する。
モルディブ - Wikipedia より引用
インドとスリランカの南西にあるようなので地図を見てきました。
Google マップ (参考地図モルディブの場所)
たしかにインドとスリランカの南西にありますが1つ1つの島はとても小さいです。26の環礁とその中の約1,200もの島からなる熱帯の国で人がいる島は約200ほどあるそうです。綺麗な海やサンゴ礁があり上にも書いた通り日本では新婚旅行地としても名前が上がります。詳細については以下に載せておきます。
モルディブ諸島(参考サイト)
モルディブで起きている問題 国が沈む
この映画で主に扱われた気候変動問題のことですが地球温暖化についてが主になります。これによりモルディブは深刻な問題を抱えています。
気候変動(きこうへんどう、英: climatic variation)は、様々な時間スケールにおける、気温、降水量、雲などの変化を指し示す用語として、広く用いられている。特に環境問題の文脈では、地球の表面温度が長期的に上昇する現象、すなわち地球温暖化とその影響を、包括的に気候変動とよぶことが多い。
気候変動 - Wikipedia より引用
地球温暖化によって海水面が上昇します。海水面が上昇する主な原因は海水の熱膨張と南極やグリーンランドの氷床の融解があります。
モルディブの海抜は最高2.4mで映画によると平均海抜1.5mと言われていてとても平坦な地形です。そのため地球温暖化によって海面が1m上昇するだけでモルディブにとっては深刻な問題になります。
また前に記事でとりあげましたがサンゴ礁の死滅も国土消滅の要因の1つとなっています。サンゴ礁の問題について取り扱った時の記事はこちら。
『サンゴ礁の冒険』のサンゴから環境問題を学ぶ - ニートが好きだね?
海抜の最高が2.4mという平坦な地形であるため、近年の海面上昇と珊瑚礁の死滅により、国土が消滅する危険にさらされている。海面が1メートル上昇すると国土の80%が失われると言われる。
モルディブ - Wikipedia より引用
この映画はこの様な問題を抱えた中で大統領になったモハメド・ナシード氏の活動を追ったドキュメンタリー映画なのです。
1978年11月11日~ガユーム大統領時代のモハメド・ナシード氏
モハメド・アンニ・ナシード氏について
Mohamed Nasheed, GCSK (Dhivehi: މުހައްމަދު ނަޝީދު; born 17 May 1967) is a Maldivian politician, who served as the fourth President of the Maldives from 2008 to 2012.[1][2] He was the first democratically elected president of the Maldives and one of the founders of the Maldivian Democratic Party.
2008年~2012年まで大統領を務めたわけですがモルディブで初めて民主的に選出された大統領です。またモルディブ民主党の創設者でもあります。
1978年~あまり知られてこなかったモルディブの歴史 ガユーム政権時代
1978年11月11日に第2代大統領としてガユームが就任します。それからモハメド・ナシードが2008年の選挙に勝つまではモルディブはマウムーン・アブドル・ガユーム氏によって長期独裁政権でした。
いまでこそリゾート地や天国のようと言われているモルディブですが当時はその美しい島で拷問が行われていたと言います。元政治犯アーメド・ナシーム氏の証言を引用します。内容がキツいので注意してください。
囚人は逆さづりではちみつを塗られアリに食われてた 砂の中に埋められて何日も雨や太陽にさらされた者も 5年の拘禁期間にこの目で目撃した
映画『南の島の大統領』より引用
反対勢力はなく99%の支持率を常に保っているような状態でした。
1989年にイギリスから帰国したモハメド・ナシードは「サング」と呼ばれる雑誌を作り政権を批判します。主に取り扱ったのが
- 汚職
- 人権侵害
の2種類でした。その結果、強制捜査され自白を拒否したためモハメド・ナシードはドゥーニドゥー刑務所に連れて行かれました。ドゥーニドゥー刑務所については以下に載せておきます。
Dhoonidhoo (Dhivehi ދޫނިދޫ, selten Dunidu), bekannt als Dhoonidhoo Prison Island, ist eine Insel der Malediven im Nord-Malé-Atoll, die als Gefängnisinsel genutzt wird.
20年間で12回逮捕されたとモハメド・ナシードは語っています。
2003年~6期ガユーム政権
ある青年が拷問によって死亡します。その遺体を母親が一般公開したことにより民主化の流れに一気に火が付いた大きな転機だったと言います。そして国内で暴動が起こり始めるのです。
2004年~スマトラ沖地震
それにより政府は非常事態宣言を出します。モハメド・ナシードは自分の身を守るため亡命しました。民主化に向けて国外で活動をしていましたが結束は固かったと言います。
そんな国が揺らいでる中スマトラ沖地震による津波で国は大きな被害を受けます。この時のことをモハメド・ナシードは以下のように述べています。
2004年 津波で国の大半が打撃を受けた 島が廃墟と化した 津波によって気候の問題を痛感した この国での暮らしの危うさを実感した
映画『南の島の大統領』より引用
津波は人命を奪いさらに国としては当時のGDPの半分を消滅させたと言います。これにより政権は危うくなりヨーロッパに援助を求めます。各国から出された援助の条件が政治改革でした。
ガユーム大統領は一時的に態度を和らげたものの本質は変わらなかったようです。
2005年4月~モハメド・ナシード帰国
亡命先で民主党を結成しましたがそれだけでは不十分だと判断したナシードは帰国して改革運動を進めます。
そしてファレスマソダをはじめ国中の島でデモが広がり規模がどんどん大きくなり公正な選挙に繋がっていきました。
改革には再選が必要だと言うガユースに対してナシードは30年もやってきたのだから5年伸びても何も変わらないだろうと語っています。
2008年10月29日・11月11日 モハメド・ナシード大統領へ
2008年の10月29日に民主化後初の大統領選挙が行われました。開票率75%の段階でナシードの勝利が確定し11月11日大統領に就任します。マーレに集まった人々は手を取り合って歌を歌い祝福したそうです。
2008年11月11日~ナシード大統領時代
着手しはじめる気候変動問題
民主化を達成したナシードは最初の閣僚会議でこの国にとって大きな問題は気候変動であるとしました。気候変動は漁業に打撃を与えていて島を削り島を水没に向かわせていたのです。
2年の間に前政権の方法ではお金が誰かのポケットに入る仕組みになっておりそれを取り戻すことによって自国の再建にあてるべきだと行動をはじめるのです。あくまで自国の問題は自国の財源で賄うべきだという立場です。
モルディブと他国との違い
気候変動問題自体は地球の問題であることはもちろんですが同じような問題を抱えているオランダやナイジェリアとはどのような違いがあるのか気候変動問題担当官のアミナス・シャウナ氏はこう述べています。
モルディブは独特よ 国も主体性も文化も何もかも失うことになる オランダやナイジェリアいろんな国があるけれどアイデンティティー自体を失う国はない 私たち以外は
映画『南の島の大統領』より引用
3千年前から海と共にそこで生き暮らし文化、言葉、文明を築き上げてきたモルディブにとってすべてを失うことに繋がりかけているのです。
2009年 漁業の打撃
2005~2007年にかけて漁業は著しく落ち込んでいました。気候変動により雨不足や季節風に変化が起こり海の潮が変わらなくなったのです。それにより収穫量はものすごく落ち込んでいました。映画内では通常1日3~3.5トンの水揚げ量が0.5トンまで落ちていると言います。そして2009年が南部の漁師にとって過去最悪の年になりました。
カーボンニュートラル宣言
モハメド・ナシード大統領はモルディブを世界で初めての「カーボンニュートラル」な国にすると宣言しました。10年後までにCO2の吸収量と排出量を相殺すると表明したということです。カーボンニュートラルについては以下に載せておきます。詳しくは調べてみてください。
何かを生産したり、一連の人為的活動を行った際に、排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素が同じ量である、という概念。
コペンハーゲンに向けての課題
世界で初めてカーボンニュートラル宣言を表明したとはいえCO2の主要排出国であるアメリカ、中国、インド、ブラジル等をどう説得するか具体的な解決策が何もない状態だったのです。
コペンハーゲンのCOP15の場はモルディブという小さい国にとっては世界に発信できる非常に重要な会議なのです。
イギリスに訴えかけたナシードは小国であることを有利にしたいと考えていました。国際社会を味方にしようと奮闘するのです。
AOSIS首脳会談と2つの目標
小島嶼国連合(しょうとうしょこくれんごう、英語:Alliance of Small Island States、略称AOSIS)は、小規模な島や沿海部の低地を有する国々によって1990年に設立された連合である。気候変動により大きな影響を受ける参加国や地域のデータを収集し、意見を集約することが主な目的とされている。
小島嶼国連合 - Wikipedia より引用
参加国の中にモルディブがちゃんとありました。独立20周年にあたるAOSISの首脳会議で様々な島国に声をかけていきます。先進国に禁止する文言ではなく行動を促すようなものにしていかないと同意はえられないと発言していきました。
国連気候変動首脳会合
2009年9月ニューヨークで行われたこの会合でナシードは先進国にクリーンエネルギーの生産を促し気温上昇を1.5度に抑えCO2濃度350ppm以下の2つを目指すことを要求します。
また10月17日に島の問題を知ってもらうために政府が世界で初めて海中閣議を開催しました。以下のサイトで詳しく紹介されていたので良かったら読んでください。
11月インドと話し合いを行うもインドとしては先進国が悪者のように扱われている、さらにインドばかり言われるという意見でした。話はまとまらないままCOP15の日は迫ってくるのです。
COP15 第15回気候変動枠組条約締約国会議とコペンハーゲン合意
2009年12月7日から18日にかけてコペンハーゲンで行われています。COP15について以下に載せておきます。
第15回気候変動枠組条約締約国会議(だい15かいきこうへんどうわくぐみじょうやくていやくこくかいぎ、Fifteenth Session of the Conference of Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change)は、2009年12月7日から12月18日の日程でデンマーク・コペンハーゲンのベラセンターで開催された、京都議定書に続く、温室効果ガス排出規制に関する国際的枠組を決定することを主な目的とした国際会議である[1]。通称COP15。
また中国メディアのインタビューにナシードはこのように答えています。
記者「中国人はモルディブを理解しつつありますが地球温暖化は陰謀だと言う人もいます モルディブは受益者だと」
ナシード「地球が丸いことを信じない人もいるし人類の月面着陸を信じない人もいる 懐疑論者が何と言おうと現実に問題が起きている」
映画『南の島の大統領』より引用
鍵を握るのはアメリカではないかという質問に対してもアメリカもだが中国の取り組みに理解を示しつつももっと努力が必要であるとしっかり返答していました。
そして各国の提案はモルディブの希望には及ばないものでした。ここで意見が分かれていきます。350と1.5度いう数字を妥協してでも合意を得るべきか考えるのです。そして各国の首脳を説得して回ります。
そして19日の午前4時28カ国が合意をしてコペンハーゲン合意作成したものの一部の国が反対したため表現を弱めた文書で採択されました。全文は先ほどのCOP15のリンクに載っているのでよかったらどうぞ。法的拘束力がある文書ではないもののナシード氏は合意のために尽力しました。
2012年2月 モハメド・ナシード大統領辞任
前政権支持勢力のクーデターが原因だったそうです。これに対しナシード氏は以下のように述べています。
“安定した民主政治がなければ気候変動運動に取り組むのは困難だ”
映画『南の島の大統領』より引用
映画はこれで終わります。
その後のモルディブ
その後モルディブは中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に関わっていくことになっていくわけです。
この記事を載せておきます。
どうなる? 「中国人の楽園」と化したアイランドリゾート、モルディブの「悪夢」は続くのか?(山田順) - 個人 - Yahoo!ニュース(参考サイト)
スリランカで起こったことと同じようなことがモルディブでも起こっていたようです。そして中国マネーによりインフラ整備が行われたもののアメリカに民主主義の後退を憂慮されます。
そしてその後2018年9月23日の選挙でイブラヒム・ソリ氏が大統領になりインドから14億ドルの融資と通貨スワップの提供をとりつけ中国依存路線を修正したという流れになります。
学んだことと書きたいこと
前半は主にモルディブの民主化の流れが学べました。
そして民主化されてから浮き彫りになった気候変動問題と環礁と島からなる国の消滅危機に取り組んでいく姿が後半にありました。
当時は後発開発途上国であったモルディブながらも先進国にしっかり発言していく姿は本当に国の危機を背負って行動している様子がわかりました。
ちょうどサンゴ礁の問題と月面着陸について学んだところだったので関連したことがでてきて驚いています。
その後のモルディブは一度中国の一帯一路の流れにいきその路線は修正したようですが今後のモルディブの動向をCOPと共に観察していこうと思います。
貴重なことを知れる映画を作ってくださってありがとうございました。
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